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『冴えない彼女の育てかた12巻』感想と考察(前編) これは倫也のたったひとつの冴えたやりかた

冴えない彼女の育てかた12<冴えない彼女の育てかた> (富士見ファンタジア文庫)

評価 ★★★☆☆ GS3と合わせて再評価します

あくまで僕の満足度 ★★★★★ 

【caution!】12巻を読んだ人をターゲットに書くから、ネタバレ全開ですよ。この作品全然知らないけど、冴えカノに興味があるよとか、アニメだけ見たんですという方も楽しめるようには書きますけどネタバレ注意ってことで

書きたいことが多すぎるため、前後編になっています。

後編はこちら。

animewalk.hatenablog.jp

恵の望まぬ"転" 賛否両論でも僕は、とても肯定的

「あ、言っとくけど、もちろん俺、今までの巡璃ルート、すっごく好きなんだ! だってメチャクチャ可愛いじゃん巡璃!」
『……あ~、はいはい』
「でも、間違いなくドラマがないんだよなぁ……ドキドキするけど、ハラハラしないっていうか」 
――冴えない彼女の育てかた 11巻エピローグ 

やっと見つけた大切なものを手放したくない、フラットでなくなった恵。いつも溢れん熱量で、最終的に大切なものをすべて手に入れる理想を目指す倫也。二人の対比は、7巻から提示されてきた一つのテーマ。


12巻は僕的に第2部で一番楽しかった、あるいは興味深かったです。評価としては7~8巻(GSも含む)に次ぐものになる。12巻だけでそれほど楽しめたのは、主人公でありながら物語の装置であった倫也に焦点を当てたから。

他ブログやレビューを見ると、なかなか今回は否定的な意見も多く、倫也の行動に感情として理解できない、同意できないという感想を見受けられた。とても良く分かります。

一度目の読んでいる時は倒れた人が紅坂朱音で、フィールズの開発は危機的状況に陥ると、僕は予想していたので的中に興奮しながら、倫也の決断からの展開には想像を超えたドラマを見せられて、すっごく熱くなった。(告白は正直急ぎすぎだろ)

熱が冷めてから読み直すと疑問がたくさん湧き出てきたし、考え込んで自分の頭の足りなさに呆れながら、とりあえずの形にできたので記事にまとめました。

まず前編は、紅坂朱音と安芸倫也のお話になります。

おおざっぱな前置き

この巻をもって7巻から始まった、フィールズクロニクルⅧにまつわる物語に決着がつきました。

この物語全体としては転にあたる部分だが、第二部として見ると、転回から結末まで描かれてる。

フィールズ・クロニクルの完成。脱退した英梨々と詩羽の二人と、あのお祭りが返ってきた。旧メンバーと新メンバーが合わさって、ついに倫也のいう「俺たちの最強のギャルゲー」を作る役者がこの時初めて、一同に会したのだ。感動ですね。

だが待てよ、と。

感動的な場面を見せられても、素直に感動できない要因がいくつかこの12巻にはあった。

紅坂朱音が倒れたのは、ご都合ではないか?

12巻はデートのドタキャンから始まる。誰かが倒れ、病院に運ばれる。倫也に関係のある人。

待ちに待った恵の誕生日。二人のデートはゲーム制作の一環として行われる建前だが、二人の心にあったのは恋愛感情であったことを言及するのは無粋かな。

これをぶち壊したのが、脳梗塞で倒れた紅坂朱音(以後、朱音)です。

なぜ彼女なのか? 英梨々や詩羽、もしくは倫也や恵の親族ではといった予想を皆さんしていた。僕も英梨々が倒れるのかー、またなのかヘイト集めるじゃん、と思っていたが英梨々が再び過労で倒れる展開は安直で、ロジカルなこの作品ではありえないだろうと。行き詰ってなんとなくGS2を読んだ。

上で僕は予想を当てたと書きました。朱音が倒れて、フィールズクロニクルは危機的状況に陥られるだろう。何気なく読んだGS2答えが書いてあったから。*1

「そりゃ、私とマルズとの契約条項に盛り込まれているからだよ」
「必ず今年中に発売するって?」
「そう、こちらの落ち度で発売が延期された場合は、私に支払われる報酬と同額の違約金を向こうに支払うってね」
「……ちょっと待って」
――冴えない彼女の育てかた Girls Side2 第8.5話 冴えない彼女の育てかた around 30’s side

むむむ、となった。朱音は物語をドラマチックにするトリックスターなんですね。特殊で特別なキャラ。黒幕、ラスボス的なそこはかとなく存在感を出してて、7巻以降に倫也と接点が多くなる。このキャラを登場させたからには、物語上の意味があるのだろう。丸戸史明はこのキャラに倫也と同じアレ*2を持たせている。

朱音がでてくる既刊を読み漁った。この物語が描く結末に至るには、彼女が不可欠だと。

「ふぁあぁ~……一週間ぶりに寝た~」
「いい加減そういうのは控えた方がいいですよ。もう無理が利く歳じゃないんだし」
「ま、今夜から三日寝続けて取り戻すから大丈夫」
――冴えない彼女の育て方 Girls Side そして竜虎は神に挑まん

脳梗塞で倒れた朱音と倫也を結び付けたのは、倒れた際うわごと「いや、それよりも安芸倫也がちゃんとシナリオを完成させたか確認しないと」

これは11巻でシナリオに行き詰まりを感じた倫也が、朱音に相談したからですね。

上の引用後に波島伊織が言っていた。倫也君と朱音さんは似ている。二人の行動原理は「理想を形に」と分かりやすい。そのために他者を巻き込んで、他人を顧みずわがままを貫き通す。この物語でずっとやってきたこと。ここに共感して憧れるか、生理的に受け付けないと拒絶してしまう人がいると思います。僕はもちろん前者。

倫也と朱音の結びつきはこの作品の文脈ではあり得ることです。強引だけど納得できる理屈は用意されていて、ご都合主義というより、お約束と言ってあげたい。どうでしょうか。

倫也の決断 オタク篇

決断は二つあった。

1. 倒れた朱音に代わって、倫也がフィールズクロニクルを完成させる。オタク篇

2. 恵への告白 恋する男の子篇 (後編でやるよ)

この12巻最大の爆弾である倫也の決断。倫也の文脈をしっかりと読み解かないといけないです。朱音の語った開発状況の真実やマルズとの戦いも言及しなきゃな~、と思うがそこは省いて倫也に注目したい。まずはオタク篇から。

7巻へのanswer 倫也の隠していた怒り

倫也は紅坂朱音を憎んでいた。

7巻を思い出してほしい。英梨々と詩羽を奪われblessing softwareは崩壊した。

その時、倫也は怒りを見せただろうか。答えは否。

酷く落ち込み半月ひきこもっていたが、結局は納得してしまった。だって紅坂朱音は神様なんだから、その神様に才能を認められた英梨々と詩羽が、クリエイターとしてのステージを駆け上がっていく。神の元で、あの企画書に描かれていたゲームを作る。間違いなく神ゲーになる。だから仕方ないんだって。

二人の決断は正しいんだ。俺、応援するから。だから、頑張れ。

そうやって東京駅で二人を送り出した倫也は理性で心抑え、もう一度恵と共に歩き始めた。

だが、12巻。フィールズクロニクルは危機的状況に追い込まれ、マルズは妥協案を押し通す。10巻で覚醒した詩羽が紡いだ物語を没にし、初稿を採用しボリュームを減らす。英梨々の才能についてこれないCG班のグラフィックにリテイクもなし。マルズは無難に、安定したゲームを作ろうとする。

朱音は倫也と町田苑子を前に泣き言を言う。私が二人の才能を見出したのに、こんな所で終わってたまるかと。

その言葉で倫也が隠してきた怒りが爆発した。

「な~にが私が見出しただぁこの簒奪者! 見つけたのも世間に知らしめたのも俺じゃねえか! あんたは俺のおかげで二人をみつけたくせに、勝手にさらってっただけじゃねえか!」

倫也の決断は本文を見てもらうほかないです。

「あいつらの才能を、本当の意味で開花させたのは、この私だ!」
「英梨々は最後の追い上げで開花した! 詩羽先輩は最初から天才だった!」
「テメェの言ってる才能はレベルが低すぎんだよ! あいつらの伸び代を見誤ってんだよ!」
「そんな偉そうなこと言ってアンタあの二人を制御できてないじゃないか! だから押さえ込めずに自分が無理して倒れたんだろうが!」
自己正当化と責任のなすりつけ合いにまみれた、醜い大喧嘩を繰り広げる。
「今のヨロヨロなあんたに、俺の宝物を……英梨々と詩羽先輩を任せられるかっ!」
「じゃあどうするってんだよテメェは!」
「俺が、俺が……二人をっ!」
――冴えない彼女の育てかた12巻 第四章

長らく心の中にあった朱音への悪意を吐き出し、ここでようやく倫也は7巻へのアンサーにたどり着いた。

いや凄いね。ここが12巻一番すきな場面です。倫也にはすごい所有欲・独占欲ってのがあって、それを自覚してなかった。目をそむけてたって言っていい。読者はみんな分かってたと思う。倫也の薄っぺらさとか偽善的な態度。大切なものを一つに絞れない保留の態度。全部大切なんだからって。

倫也と朱音は似ている。だけどここが違うのです。作品の為にならクリエイターがどうなろうと知った事かな朱音。自分もクリエイターに寄り添って、一緒に作品を作る相手の事も大切にする倫也。

最高のハッピーエンドを目指すんだと。

これが6巻と12巻での恵とのすれ違いに言及する時のポイントになります。

後編できました。

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*1:本読む時、気になったところに付箋を貼り付けているのだけど、「ここ伏線!」と過去の僕が教えてくれただけです

*2:詳しくはまた別の記事で書くけど、オタク・クリエイターとしての投影。自己言及。こうであって欲しいな、という願い。最近お仕事モノの作品が多い理由とかこれで説明できるんだよね。