読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

アニメの歩きかた

アニメやラノベで溢れかえるこの世界を一緒に歩きましょう

『冴えない彼女の育てかた12巻』感想・考察(後編) 3人の決断と倫也の選んだグランドルート

ドラゴンマガジン H29年3月号

【caution!】こちらの記事の続きです。animewalk.hatenablog.jp

【caution!】12巻を読んだ人をターゲットに書きます。ネタバレ全開です。この作品全然知らないけど、冴えカノに興味があるよ、アニメだけ見たんですという方も楽しめるようには書きますが、ネタバレ注意です

お待たせしました後編です。安芸倫也と三人のヒロインの話。

おおざっぱな前置き

フィールズクロニクルⅧを朱音に代わって完成させることを決意した倫也。

これによってメインヒロイン加藤恵との間に亀裂が走る。

わたしたちのゲーム「冴えない彼女の育てかた(仮)」はどうなるのと、人の作品(それも因縁の敵の)の方が大事なのかなと恵は涙を流す。報告して連絡はしたが、相談せずまた勝手なことをする倫也に対してついに、あなたのメインヒロインになれないよと告げてしまう。

物語に出てくるような主人公の都合にいいヒロインにはなれないって事ですね。

ここから詩羽、英梨々、恵の順に話が進みますが、メインコンテンツは恵と倫也なので面倒な人は「ここからどうぞ。」

詩羽の諦念とチーム再結成

冴えない彼女の育てかた キャラクターイメージソング 霞ヶ丘詩羽

まずは霞ヶ丘詩羽のお話。

マルズとの交渉をへて締め切りの延期にこぎ着けた倫也。さまざまな譲歩をして、最終調整という名の修羅場に挑むことになり、詩羽と英梨々に再び、いっしょにゲームを作ってくれとお願いするが、二人は快諾しなかった。

特に英梨々は過去のトラウマやわだかまりで、チーム再結成に返事をしなかった。空回りした倫也に詩羽は問いかける。

去年の轍を踏ませるのか、わたしたちとゲームを作ることに、わだかまりはないのか。

サークルの方はいいのか。加藤さんに、もう話したのか。

「そりゃもう、ものすっげぇ怒られた。今でも許してもらってない」
だからこそ、サークルに戻るのもきっと一筋縄ではいかないはずで、これからのいろいろな面倒事を考えると物凄く頭が痛い。
「でも、諦めない……今度こそ諦めない、自信があるんだ」
……なのに俺は、さっきから微笑を崩さないままでいて。
「何としても許してもらって……」
そんな俺の、奇妙で滑稽な表情を……
「そして、最高のギャルゲーを作り上げる、自信があるんだ」
詩羽先輩は、今度は切なげな表情で、ずっと見つめていた。

そして数秒後。
「あ~そういうことなんだ~」
詩羽先輩は、まるで恵のような、フラットで、間延びした反応を返す。
「色々と、覚悟を決めたのね……倫也君」
――冴えない彼女の育てかた12巻 第6章

詩羽は、ここで倫也の想いを察した。

想いはたぶん、向き合おうとする心。

逃げずに言い訳せずに全力で、最高のゲーム作りと、加藤恵という女の子に向き合おうとしている。そんな風に僕は倫也を見ている。向き合おうとする心については後述が詳しいです

その覚悟を見た詩羽は、想い続けてきた倫也への恋心をあきらめる。そうしてチーム再結成を誓った。 なぜ恋のあきらめが、チーム再結成につながるのか。


詩羽と英梨々があのサークルに参加した理由は2つあった。1巻の内容で、もうだいぶ前のこと。

1. 倫也への好意、関係の修復

2. 柏木エリ(霞詩子)と共作がしたい*1

忘れがちだけど、二人とも物語開始時点では倫也と疎遠な関係だった。恵にお願いされる形で参加したけど、倫也との交流が再開したことを両者は喜んでいた。下心あってのサークルだったから、初めから歪なものだったね

詩羽は何度も倫也のことを諦めようとしてきた。5巻と7巻がそうです。

恋のあきらめをした詩羽に、もう歪なものはなかった。ただ純粋にゲームを皆で作るため、英梨々の説得を買って出て、1年ぶりのチーム再結成を宣言した。*2

英梨々と倫也の決意と未来

冴えない彼女の育てかた キャラクターイメージソング 澤村・スペンサー・英梨々

澤村スペンサー英梨々にも、先ほど述べた詩羽と同じわだかまりがあった。

そのわだかまりへの英梨々の決断は、この巻では描かれていない。既にもった決意をうかがえるだけです。

勝手に倫也の家に上がり込んで、作業をしている英梨々。原作2巻(アニメでは第3話)の懐かしい光景。

f:id:shutoragira:20170402201744p:plain TVアニメ『冴えない彼女の育てかた 』3話

しょうがないでしょ、だってあたしは柏木エリなんだから」の言葉で戻ってきた。

ここが英梨々の決意なのでしょう、一見イラストレーター柏木エリとして、倫也のことを諦めたように見える、それでは澤村英梨々として倫也に決着がついたのか分からない。けれど、倫也の傍で絵を描くことができるようになった。ここばかりは次巻GS3を読まなければわからないです。

そして英梨々と倫也は未来の話をする

英梨々はこれからもっと凄くなってマルズや紅坂朱音の枠に収まらないイラストレーターになる。そしたら倫也が正々堂々と雇いにいく。

「待ってろ、英梨々。
 俺が追いかけて、今度こそ追いついて、そして、もう一度、一緒にものを作る。
 ……必ず、お前が参加したいって思えるような企画書を携えて、さ」
――冴えない彼女の育てかた12巻 第8章

今巻のフィールズ騒動で、倫也ははじめて商業というステージで、耐えがたい経験をした。これを機に倫也がこれから目指すところがはっきりと見えてきた。進学しないで就職すると述べていた彼が、商業のステージで生きていくのは、まあそこに着地するよねといった感じです。

将来は朱音の会社である紅朱企画で2年間の働いて、業界のことを学ぶのではないか、というのが予想の一つです。

メインヒロイン加藤恵

冴えない彼女の育てかた キャラクターイメージソング 加藤恵

恵派の人はここからです。

これで最後メインヒロイン加藤恵について。

めでたくチーム再結成となったがオリジナルメンバーで恵だけが足りていない。上で述べてきたことを恵は知らない。倫也との二度目の断交状態にあるからでした。

加藤恵はクリエイターじゃない

倫也と恵のすれ違いは6巻以来2回目のこと、どちらにも共通して言えることがある。それは、"恵はクリエイターじゃない"から。

クリエイターってのは自意識の問題だと考えます。 クリエイターを自称する人だっていっぱいいる。つまるところ、そこにあるのは心の柱=プライドになる。

cherry blessingの最終演出やスクリプトはだいたい恵がやっていた。とりあえずみんなを励ます方向で、と一巻で言っていたがすでにクリエイターの領域に踏み入っているのは、外から見てわかる事。

でも加藤恵は自分のことをクリエイターだと思っていない

常に恵は"じゃない"だった。オタクじゃない普通の女の子、クリエイターじゃない普通の女の子。倫也たちとの違いがいつも強調されてきた。英梨々とのすれ違いだって、クリエイターとしての考えが分からないからだった。

紅坂朱音を知らない。フィールズクロニクルも知らない彼女は、倫也のいう自分たちのゲームもフィールズもどっちも大事なんだ、が分からない。

だからいつも大事な時、恵は蚊帳の外。

彼女の決意と最後の一歩

蚊帳の外である恵に対して、倫也はメールを送る。彼が今思っていることと、フィールズクロニクルを制作している3人の活動を、一方的に厚かましく恵に伝える。このメールを冴えない彼女の育てかた(仮)のメインルート。最後の仲直りイベントするから、だから隣に居てほしいと伝える。

恵は戻ってきた。倫也のためにではなく彼女自身の為に。ここ、ここが大事です。後述する対等性の話につながる。

ずっと願っていたサークルの修復。恵にとってかけがえの無い場所を取り戻したい。だから彼女の意思で戻ってくるも、最後の一言「また一緒にゲームを作りたい」を言えないでいた。

これが自分のわがままを貫き通せない、優しい普通の女の子加藤恵なんだから、誰かが手を引かなくちゃいけない。

冴えない彼女の育てかた12<冴えない彼女の育てかた> (富士見ファンタジア文庫)

「あたしたちのゲームを、最高の作品にするために、助けてくれないかなぁ?」
――冴えない彼女の育てかた12巻 第9章

ここは多く語りません。本当に、この物語は一枚の絵に集約する。

キャラが薄くて、中途半端で、冴えなかった彼女が、初めて心の底から親友と向き合い、涙を流し微笑む。

深崎先生、素晴らしいです。

これで長い物語にも終わりが見えてきた。

…………

……

倫也の決断 恋する男の子篇

「俺……恵が好きだ! 三次元リアルのお前が好きだ」
「その『リアルの』っての、いらなくない?」
――冴えない彼女の育てかた12巻 エピローグ、そして、13巻プロローグ

まだまだ続きます。なぜ12巻の感想書こうとしたのかはここでした。倫也の告白です。

13巻のプロローグって書いてあるし、発売してからでいいよねと逃げたくなるけど、最も気になる二人の恋路。ほんとにこれが最後の項目。

ちょっと視点を変えます。物語の文脈に沿わずに読者としてマクロな所から。

返事は、まだない

これは最後の引きです!。11巻のエピローグとか、あれは英梨々が倒れたと読者に誘導させた"ミスリード"ってやつです。

告白に対する恵の返事は、していない。ただフラットに言葉を返しただけ。果たして二人は恋人同士になるのか、そこにどんな過程があるかは最終巻である13巻の内容でしょうね。

だけど倫也が告白をしたということは、恵ルート確定のお知らせと言っていいです。おめでとう。

ハーレムもの=主人公が選ぶ物語

冴えない彼女の育てかたはハーレムものです。

出てくるヒロインたちは皆主人公に好意を持っていて――好意を抱く可能性を必ず秘めている――そんな女の子たちに囲まれるものだ。そういうジャンル。

そしてこの作品は、メタギャルゲー(エロゲ―)作品です。そもそもメタフィクション的でした。

同人ギャルゲー制作をするハーレムもので、お仕事もの。ここが冴えカノの構造的な面白さ。「メタギャルゲー・ハーレム・お仕事もの」三重構造は伊達じゃない。

丸戸史明ノータッチの似非ギャルゲーも出てます。おススメしません。

複数ヒロインがいて、主人公の選択によって、各ヒロインとのルートに分岐していく。一人をずっと想い続ける健気な恋じゃなくて、ちょっとした選択で相手が変わる、なんとも軽薄なもの。

安芸倫也ハーレムは5人。実質的なヒロインってのは恵、英梨々、詩羽の3人。

ここから1人を選ばなくてはいけない。

その理由は彼が作りたいギャルゲーはメインヒロインがあるから。最愛の彼女を決めなくてはいけないのが、安芸倫也に課せられた呪い。

そして加藤恵が選ばれた。

冴えカノダブルヒロイン論 倫也はちゃんと恋がしたかった

冴えカノって結局ダブルヒロインじゃないか、こう考える。

安芸倫也という主人公の原体験=創作意欲。なぜゲームを作ろうとしたのか?

  • 桜舞い散る坂の上での加藤恵との出会い 

  • 初恋の幼馴染への失恋 澤村スペンサー英梨々の裏切り 〇

運命の出会いは大きなきっかけだけど、初恋の失敗と失望が、倫也の原動力にもなっている。

彼がオタクになったのは澤村家の影響だ。小学校でのオタクを理由にした迫害(時代の移りで今は減ったようです)によって、よりオタクへと二次元へと傾倒していったのが安芸倫也という人間だと、考えます。 彼は必要以上に自分をオタクだキモオタだと卑下して、三次元の女の子が自分に興味を持つかと、逃げていた。

そうして現実の女の子に恋することを忘れてしまった倫也が、ゲームの中でちゃんと誰かを好きになりたい。今度こそという思いのきっかけになったのが、恵との出会いだったと。つくづく倫也と英梨々の因縁は深すぎます。

こうやって読み解くと、英梨々って本当に最強のヒロインで、倫也と結ばれるべきポジションに居たのに……。余談ながらここでスタードライバーを思い出しました。

スタードライバー THE MOVIE [レンタル落ち]

これはダブルヒーローな作品。「本来ならばこの物語の主人公はスガタであるが、 タクトが来たことによって変わってしまった」と脚本家が語った。

二人のココロは愛から恋へ

冴えカノで一番あつい論争に踏み込みましょう。

加藤恵はどの時点で主人公を好きになっただろうか。

11巻でついに愛から恋になったと僕は考える。わけわかんないことを言ってると自覚してます。

恋が愛へと変わることは分かってもらえると思います、最近すごく説明に適した楽曲があった。たぶんみんな知っている。



星野 源 - 恋 【MUSIC VIDEO & 特典DVD予告編】

なかなかいいです星野源

この楽曲に関して様々なサイトが解釈している、そのひとつ。

星野源「恋」の歌詞の意味は?解釈と考察!

僕なりの解釈で、

恋は何かを好きになる、一人よがりな感情。

愛はそれを想いやれるレベルまでいった、恋の先にあるもの。とする。

それに愛にもいろいろ種類があって、向ける対象が人なのか、動物か、モノ等で変わってくる。


加藤恵のココロにあったのは、友愛ではないか。

家族愛とも言える。11巻で夫婦カップルの話があった。ずっと一緒にいる事前提で、支え合っている恋人同士みたいな。まさに加藤恵にあったのは友愛・家族愛の想い。性愛的なものを感じさせない心のつながり。

もちろん恋愛的な好きのかけらは、互いに持っていた。なにせ、倫也は一目惚れでした。

仲間で大切な友達だった気持ちが、変わったのが11巻。

冴えない彼女の育てかた11<冴えない彼女の育てかた> (富士見ファンタジア文庫)

恵をモデルにしたメインヒロインルート、その執筆のため二人は疑似恋愛を通じて、恋の自覚をしてしまった。

通常カップルというのは恋をして、一緒になり、愛へと育まれたものになる。二人はそこをすっとばして、より高尚な愛の形が育まれてたから、今まで恋愛という考えに至らなかった。

いやあ餅は餅屋だけに、ヒロイン造形が面白いです。恵の恋かと思えなくもない描写などのさじ加減が上手い、僕はもうどっちなんだよって煮え切らない思いしてきました。

恵と英梨々をわけたものは対等性

最終的に主人公によって選ばれるのは、対等であるかどうかでした。

幼馴染、人気同人イラストレーター、同級生。物語開始時点ですでに、英梨々は人気クリエイター。ただの消費者だった倫也とは対等でない。それに英梨々の「肝心なところで意地をはる」が災いして、倫也と真摯に向き合えたのは6巻だった。

冴えない彼女の育てかた 6 (富士見ファンタジア文庫)

しかし、柏木エリとしての決意によって、再び二人の距離は開いてしまった。

紅坂朱音の誘いを断って倫也の傍にいれば、メインヒロインになれたが、それはゲーム的にいう英梨々ノーマルエンド。最高のエンディングではない。


こうして恵に話を移ります。

彼女は最初は対等じゃなかった。倫也に振り回される日常で、無茶なわがままも、なんだかなぁで許容してしまう。この時は本当に都合のいい女の子でした。

どんどん巻を重ねるごとに、恵も能動的になっていきゲームを良くしようと皆のために頑張る。そして転機が7、8巻。

冴えない彼女の育てかた7<冴えない彼女の育てかた> (富士見ファンタジア文庫) 冴えない彼女の育てかた8<冴えない彼女の育てかた> (富士見ファンタジア文庫)

すれ違って向き合って。バラバラになったものを再構築し、あの日々を取り戻すため。そして本当に倫也の作りたい、胸がキュンキュンするゲーム制作を、倫也と恵が中心となって。

もうここで「冴えない彼女の育てかた」は加藤恵を指す本来の意味を無くし、劇中作を指すものになった。この当たりの理由付けも上手い!。

7巻から二人の対等性が少しずつ形を成してきたが、今巻で問いかけられる。本当に倫也と恵は対等なパートナーになれているか? そうして対等になれきれない場所、前述の加藤恵はクリエイターじゃないにつながる。

 正しい二人の向き合いかた

これは自覚だけの問題じゃなくて、周囲の扱いもあった。倫也はまだ恵をクリエイターを目指すパートナーとして認識が足りてなかった。だから電話口で、「恵も手伝ってくれ」と言わなかったんだ。時間がなくて、焦っていたのもあるが恵に相談することをしなかった。一人でクリエイターの階段を駆け上がろうとした。

恵は反発した。一年前を取り戻したいのは彼女も同じだが、それ以上に倫也の強い裏切りを感じたと思います。大切なゲーム作りと倫也との疑似恋愛関係が混同したことによって。

それでも彼女は戻ってきた。いや、初めて加藤恵は追いかけてきた。離れること、歩みを共にすることはあったけど、追いかけることは無かった。

クリエイターの考えはまだ分からない。倫也をまだ許してない。だけど一年前のゲーム作りをやり直す気持ちがあったから、倫也が目指している方向へ恵も走った。サークルメンバー全員を引き連れて。

最高のハッピーエンドへ至る、グランドルートをオールキャストで走るのだ。

これが僕の思う二人の対等性です。ラストで倫也が謝るといって、恵へ告白したのは、まだ謝る過程で必要な事だからだと思う。これはミスリードだ。まだあのセリフには続きはあるはず。告白ではなく、謝罪の意があって。彼女に対等でなかったことへの理由が、恋のココロって事じゃないか。

おわり

この作品残すところGirls Side2と最終13巻になります。GS3は12巻と表裏一体な構成になると予想しています。内容によっては延々と述べてきた僕の考えなんか、ひっくり返す描写があるかもしれない。そしてこの売り方はずるいと思う。描写不足が、妄想を豊かにさせてこんな記事を生み出す。エヴァンゲリオンけものフレンズにあった、ファンの考察合戦になるのも当然な売り方。見事に釣られたー。

12巻は集大成のようなものだと思ったので、とても長い文章になってしまった。前後編で一万文字越え……、ほんとにごめんさない。そして最後まで読んでくれてありがとうございました。

冴えカノに関しては、1巻からちゃんと記事にするつもりなのでよろしくお願いします。

*1:Girls Side、詩羽と英梨々視点の物語、そこで詳しく書いてある

*2:詩羽が英梨々を一夜で説得したのだけど、12巻では描写されてなく、次巻のGS3になるでしょう